【夜光物語】第肆話「やさしい神様」

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生まれた時からずっと、独りぼっちだった。

物心ついた時から、親に触れられた記憶はない。

みんな私に近寄りたくなかったみたい。私に蔑みの目を向けてくるだけ。私は何もしてないのに。

私は、呪われた子、なんだって。

狸の家に生まれてはいけないんだって。

だから、私は世間から隠された。

ずっとこの小屋で暮らしてきた。外に出ることはできなかった。

一人だけ、私のお世話をしてくれる使用人のおばあがいた。おばあが家からご飯を運んでくれた。おばあだけが、私と遊んでくれた。

おばあは言ってくれた。私が悪いんじゃないんだって。狐と交わった、ご先祖様が悪いんだって。

おばあだけが、私にやさしくしてくれた。私はおばあが大好きだった。

でも、おばあは急に来てくれなくなった。

別の男が、ご飯を持ってくるようになった。

その人の目は、怖かった。

ご飯を持って来るたび、私のことをじろじろ見るの。頭の先から、しっぽの先まで。

でも、一言も話さない。ご飯を置いて、すぐ帰っちゃう。

ある時、その男がやってきた。

ご飯を持ってきたんじゃなかった。鈍く光る、包丁を持ってきた。

「大人しくしろ。」とそいつは言った。怖かった。物を見るような目だったから。

え、なに、何する気...と混乱している私にその男は、
「いいから黙れよ。誰もお前のことなんか気にしてねぇんだから、何されても文句は言えねぇんだよ。」と言った。

怖かった、けど、同時に悲しくなった。やっぱり私は、普通じゃないんだって。誰にも見てもらえないんだって。誰にも守ってもらえないんだって。

なら...もういいよ。もう私は、私じゃなくなりたい...誰も...近づかないで!!!

そいつは逃げた。私がゴーストになったから。そして私が、強くなったから。強く...見られるようになったから。

誰もこの小屋に近寄らなくなった。家からのご飯も届けられなくなった。

でも、私はもう、一人でいい。他人なんて必要ない。あの蔑むような目も、嫌らしい目も、もう見たくない。私は独りで生きてくの。
私は...
......
...

誰か私を、認めてよ...


私が肩を触ると、彼女は驚いた表情で私の手を振り払い、後ろに下がった。
「おじさん、私が怖くないの?」
「いいえ?怖くありません。」
「私、ゴーストだよ?」
「いえ、私にはかわいい狐の女の子が見えてます。」
そういうと彼女は、目を見開いた。彼女が着ている服はボロボロで、元は金色であろう毛皮も汚れて、くしゃくしゃになっていた。
「おじさんは、何が目的なの。私を...殺しに来たの。」

そう言われて私は、にっこり笑ってこう答えた。
「一人の狐の女の子に、会いに来ただけですよ。」
まあ、笑うといっても目しかな(以下略)

第四話「やさしい神様」

 

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