【夜光物語】第参話「独りの女の子」

 

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「さて、ここですね。」
私はその小屋の前に着くと、スーツケースを一度地面に置き、ネクタイをきっちりと結びなおした。
狸人の主人が語ったところによると、ここは確かに狸山家が所有している小屋らしい。しかしここ数ヶ月の間は、誰も寄り付いていない。ゴーストが出たからだ、という。


この世界に存在する怪異は、二種類に分かれている。一つ目は知性を持ち、社会を形成している存在、「妖怪」。そしてもう一つは、知性を持たず、妖怪たちを襲うこともある、「ゴースト」だ。ゴーストが出るとたいていの場合、妖怪たちは自らの力で太刀打ちすることは難しい。そこでゴースト退治を生業とする者に依頼をすることになる。それがゴーストバスター、ちなみに国家資格である。

 

「しかしあの方、この小屋のことを尋ねた時、嫌そうな顔をしていましたね、どうしてでしょうか…あれだけ栄えている家柄ならば、一般の民衆には高い依頼料とは言え、簡単に払えるはずですが。」
などと独り言をつぶやいた後、私は思わずにやけてしまった。
「いいですねぇ…何かが隠されている気がします。」

まあ、にやけるといっても目しか無いのだが。

 

私はその小屋の引き戸を開け、中に入った。主人の言うとおり鍵はかかっていなかった。
倉庫として使われていたのだろうか、高いところに小さな窓一つあるだけで、中は薄暗かった。しかしそれほど、埃臭くはなかった。
「ふーむ、なるほどなるほ…!?」
目を凝らしてよく見ようとしたその時、突如として前方に黒い塊が表れた。次の瞬間そこから、たくさんの石礫が飛ばされてきた。
「くっっ…!!」
あまりに突然の出来事だったため、反応速度が遅れた。腹部に鈍痛を感じる。
その黒い塊は次に、スライムのような液状に変化し、大量の濁った色の水を飛ばした。
まずいと思った私は後ろに飛びのき、小屋の外に出て扉を閉めた。

 

「ふう。」
小屋から出て、私は一息ついた。

 


目を閉じて考えること五分、私はもう一度スーツケースを下ろし、ネクタイを締めなおし、白衣を一度脱いでバサバサと埃を払い、再び着た。
「さて、行きましょうか。」


扉を開け、中の様子に目を凝らす。そして一歩踏み入れたその時、再びあの黒い塊は現れた。

「先ほどは突然のことに、慌ててしまいました。」

私は飛んでくる石礫を、最小限の動きでよけつつ、前に進む。

「ちゃんと見れば、分かったはずなのです。」

私は濁った水をスーツケースで払いのけ、さらに前に進み黒い塊に手を伸ばした。

 

そして

 

 

「大丈夫ですか?」
と、私は狐の半獣人の女の子の肩に手を置いた。


第三話「独りの女の子」

 

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