【夜光物語】第弐話「ゴーストバスター」

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小一時間ほど歩くと、山間に小さな村が見えてきた。その周囲には田畑が見えるから、おそらく農村だろうか、と私は考えながら歩みを進めた。

そこからさらに十分ほど歩き、田んぼの横のあぜ道に差し掛かったところで、私は農作業をしていた年老いた狸の半獣人に声をかけた。
「すみません、少しよろしいですか?」
「おんや、こんなところに旅の人が来るとは珍しいねえ、、、なんだい?」
「ここは初めて来るのですが、この村のことに一番詳しい方はどなたでしょう?」
「うーん、、、そりゃおめぇ、地主の狸山さんじゃろうな。この村に代々続く家系じゃから。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「ところで一つ目の旦那、あんたここらじゃ見ない人だね?どっから来たんだい?」
「ははは、、、、、、」

 


私は適当に誤魔化し、お礼を言って村に向かった。

 


門をくぐると、そこは割と活気のある広場だった。ゴザを広げて座っているろくろっ首のお姉さんは、この村でとれたのであろう野菜を並べて客を呼び込む。一つ目の馬を引く、笠を被った鬼は、恐らくよそから来た商人だろう。馬の背には魚籠が吊り下げられているから、恐らく海辺から来たのだろう。他にも歩き回る者、立ち止まって品定めをする者、値下げの交渉をする者、様々な怪異たちがにぎやかに過ごしていた。

 


その広場で売っていた、奇麗な柄の細長い布を買うついでに、私は狸山家の場所を聞き、そこへ向かった。さすがは代々続く地主の家、門はずっしりとした重厚感にあふれ、屋根の瓦には家紋らしき模様が見えた。私は門をたたき、取り次ぎに出てきた使用人らしき小狸人にこう言った。


「ご主人はいらっしゃいますか?」
「へえ、おりますがいったいどういったご用件で?」
「では、こうお伝えください。あなたが所有している、村はずれの小屋の件でお伺いしました、と。」


程なくして部屋に通された。髭を生やした恰幅の良い狸人の主人に対し、私はにっこり笑ってこう言った。


「お初にお目にかかります。私、通りがかりのゴーストバスターでございます。」

 


まぁもちろん、笑うと言っても目しか無いのだが。


第二話「ゴーストバスター」

 

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【夜光物語】第壱話「夜明け」

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目を、覚ました。

水のせせらぎが聞こえる。ここはちいさな川のほとり。
私は柔らかな草むらから頭を起こした。周囲はぼんやりと月に照らされている。しかし、川の向こう岸には木が生い茂っており、月の光も届かない。真っ暗闇である。

私は枕代わりにしていた自分のスーツケースを持ち、立ち上がった。背中についた土や草を払い落とす。そろそろ出発するとしよう。まあ、特に行くあてはないのだが。
川岸の坂を上って、そのまま道に出てもよかったが、もう少し川の音を聞いていたい気分だった。私はそのまま、川沿いを歩き出した。

 


どのくらい歩いただろうか。道からはだいぶ離れている気がする。周りは木々に覆われ、月明かりも徐々に届かなくなってきていた。私の目でも、そろそろ見えない。これ以上は進めない、引き返そうと思っていたその時だった。急に少し開けた場所に出た。

そして


私は、満天の星空をそこに見た。


蛍だった。たくさんの蛍の光が、川の上に舞っていた。スーッと光が横切り、またスッと消える。数えきれないほどの光が、一定のリズムで点いては消え、点いては消えを繰り返す。それはまるで生命が胎動しているかのように。その下を緩やかに流れる澄んだ小川は、その水面に蛍の光を反射させた。私の視界の中は、蛍の生命の光で埋め尽くされた。

言葉を発することはできなかった。私はただ、そこに立ち尽くし、その幻想的な風景を心に焼き付けていた。

 

 

気が付くと、空が白み始めていた。夜から朝へと向かう中で、その場所も徐々に明るさを持ちつつあった。蛍の光は徐々にぼんやりとしていき、、、そして消えた。今、水面は優しい朝の木漏れ日を反射していた。私は道まで戻り、そしてまた歩き出した。

 


第1話 「夜明け」