【夜光物語】第壱話「夜明け」

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目を、覚ました。

水のせせらぎが聞こえる。ここはちいさな川のほとり。
私は柔らかな草むらから頭を起こした。周囲はぼんやりと月に照らされている。しかし、川の向こう岸には木が生い茂っており、月の光も届かない。真っ暗闇である。

私は枕代わりにしていた自分のスーツケースを持ち、立ち上がった。背中についた土や草を払い落とす。そろそろ出発するとしよう。まあ、特に行くあてはないのだが。
川岸の坂を上って、そのまま道に出てもよかったが、もう少し川の音を聞いていたい気分だった。私はそのまま、川沿いを歩き出した。

 


どのくらい歩いただろうか。道からはだいぶ離れている気がする。周りは木々に覆われ、月明かりも徐々に届かなくなってきていた。私の目でも、そろそろ見えない。これ以上は進めない、引き返そうと思っていたその時だった。急に少し開けた場所に出た。

そして


私は、満天の星空をそこに見た。


蛍だった。たくさんの蛍の光が、川の上に舞っていた。スーッと光が横切り、またスッと消える。数えきれないほどの光が、一定のリズムで点いては消え、点いては消えを繰り返す。それはまるで生命が胎動しているかのように。その下を緩やかに流れる澄んだ小川は、その水面に蛍の光を反射させた。私の視界の中は、蛍の生命の光で埋め尽くされた。

言葉を発することはできなかった。私はただ、そこに立ち尽くし、その幻想的な風景を心に焼き付けていた。

 

 

気が付くと、空が白み始めていた。夜から朝へと向かう中で、その場所も徐々に明るさを持ちつつあった。蛍の光は徐々にぼんやりとしていき、、、そして消えた。今、水面は優しい朝の木漏れ日を反射していた。私は道まで戻り、そしてまた歩き出した。

 


第1話 「夜明け」